酔ったときのことは忘れるのがいい酒だと思うのでしょうが、どうでしょうか?
翌日、あやめは基について、出かけていた。
仕事でだ。
高層ビルなのに、ガラス張りのエレベーターで、寒ーくなりながら、目的のフロアに向かっている途中。
たまたまエレベーターで二人だけになったところで、基が言い出した。
「お前、昨日、俺のことを、コンパのときは、すがりつく仔犬のようだったとか抜かしてなかったか」
……酔ったときのことは忘れるのがいい酒だと思うのでしょうが、どうでしょうか?
とあやめは再び、心の中で繰り返していたが。
口に出したら、このガラスのエレベーターを突き破って下に落とされそうなので、沈黙していた。



