5年前の今日の夜、優愛は亡くなった。

俺はその日の夕方、バイトから帰宅した。

そのあと、優愛も仕事から帰り
脱いだコートをソファにかけ俺の隣に座った。

「誠二くん?今日はオムライス作ろうか?」

俺は、やりたい仕事がなかなかできず
実力も認めてもらえない思いから焦っていた。
不機嫌な顔をしていたのだろう。

優愛は大きな目で俺の顔を覗きこむ。

そんな俺に優愛は「誠二くんなら大丈夫だよ」と言って頭をなでた。

彼女の口癖のようなものだった。

なにが、大丈夫なものか。
優愛には俺の焦りなんて何も分からないのだ。

なによりも、1歩踏み出せない自分が情けなくて…

俺は優愛の手を振り払った。

今でも思い出せる。

俺は優愛に許されない言葉を浴びせかけた。

茶色い瞳が俺を見つめる。その目は潤んでいた。

「ごめんね」

そういって、優愛は俺の部屋からそっと出ていった。


その数時間後だった。

優愛が交通事故にあったのは。

その日はとても寒く雪で路面が凍結していた。
スリップした車に衝突された。

救急車が到着するのに時間がかかり、搬送先の病院で優愛は亡くなった。

優愛がどんな思いで寒く暗い夜道を歩いて
救急車が到着するあいだ、どれほど苦しんだか。
きっと、俺を恨んでいただろう。

あのとき、俺が優愛にひどいことを言わなければこうはならなかった。

優愛の葬式で俺は泣かなかった。

泣く権利がないと思ったからだ。
優愛は俺が傷つけたそのせいで亡くなった。

俺が殺したようなものだ。だから、俺は泣かない。

泣くことが自分勝手なような気がしたからだ。

それから俺は優愛を忘れるためにがむしゃらに働いた。
バイトからやっと自分が希望していた職場へ就職することができた。
やりたかった仕事ができる
忙しい毎日を過ごすことで俺は優愛を忘れようとした。


去年のことだった。

仕事が一段落して俺はなんとなくネットをぼんやり眺めていた。

『あなただけのロボットをお届けします』

シンプルな白いサイト

ロゴもなにもなく、ただその一言だけがサイトに記されていた。

俺は、なんとなく

『あなた好みのロボットをお届けします』

という、文字をクリックした。

数分後、メールが届いた。

『ご注文承りました。ロボットの製造に入るため発送は来年の夏ごろとなります』

ただのイタズラだと思ったが今年の夏、本当にユアが届いた。

ユアは生きていた時の優愛そのものだった。
優愛の長い髪も、茶色い瞳も、落ち着いた声も。
「誠二さんなら大丈夫だよ」という口癖も。

なにもかも同じだった。