真人は美咲に言葉をかけた。
「美咲、オレは待っている。
生まれてくる子供のためにも、
父親として守っていくよ」
「真人さん、あなたを信じていいのね」
「言っただろう?
オレは、財産はいらない。
おまえがいてくれたら、
それでいいんだから」
「ありがとう」
美咲は、うれしかった。
信じてくれる人がいる。
心の底から愛してくれる人がいる。
それは、とても幸せなことだった。
しかし、その幸せに影を落とした。
「何を勝手なこと言うんだ。
オレは、離婚しない。
子供は、絶対に産ませない。
美咲は、オレの妻だ。誰にも渡さない」
邦雄の言葉に麻子が言った。
「邦雄、いいじゃないの。
美咲さんがいなくなれば、
あたしはうれしいわ」
「姉さん、もうこれきりにしてくれ。
オレと美咲の邪魔をしないでくれ」
「今さら、何を言うの?
あたしたちは、今までどおり
つきあって行けばいいのよ。
あたしを怒らせないで」
麻子の言葉に、邦雄は恐怖を感じた。
邦雄は逆らえば鬼のようになる
麻子に逆らうことができないのだ。
だから、美咲と結婚しても
麻子と関係をずるずる続けていたのだ。
だけど、今度こそ断ち切る。
「姉さん、オレには美咲がいる。
美咲と一緒にやり直していく」
「あたしより、美咲さんがいいって言うの?
信じられないわ。
わかったわ、あたしを敵にまわすと
どうなるか覚悟して言っているのね?
邦雄、美咲さんのスキャンダルを
マスコミにばらまいてやるわ。
きっと、大騒ぎになるわね」
そう言うと高笑いしていた。
なんて、恐ろしい女だろう。
邦雄と真人は、麻子が悪魔のように見えた。
このスキャンダルが表に出ると
高見沢家の信用にかかわる。
そして、父親である高見沢源蔵の
信用を落とすことになる。
邦雄と麻子、そして真人と美咲、
それぞれの関係が源蔵どころか、
母親である高見沢静子にも
知れ渡るのも時間の問題であった。