【Hiei's eye カルテ6:肩書きが仮面になる日】
彼女とか恋人とかでもないのに、伶菜を背中から抱きしめるという非常識な行動をしてしまった翌朝。
「医師失格。」
『・・・見てたんですか?』
「夜勤の看護師から聴いたわよ。事情があるから他言しないようにってフォローしておいたけど。」
『助かります。』
俺のプライベートな事情を知っているこの人ならではの対応に感謝する
でも、これで終わらないこともわかっている俺は一歩後ずさりをせずにはいられない
「あ~、そういえば、今、栄の百貨店で大北海道物産展やってるのよね・・・とろけるフォンダンショコラ、限定20個らしいのよ。」
『気のせいですよね?』
「ネット通販やっていないお店だから、食べたいのよね~」
『・・・・・・・』
「そう、限定20個。ナオフミくんは大勢の女性職員に騒がれもみくちゃにされるよりは行列に並ぶほうがラクよね。」
『俺が大勢の女性職員にもみくちゃとか、それはないでしょ?』
「ふ~ん、余裕よね。伶菜ちゃんが冷たい視線に晒されてもいいの?」
どういう揺さぶり方をすれば俺が動くかまで熟知
『・・・限定20個ですね。』
「交渉成立。」
夜勤明けで久しぶりに帰宅できる俺にブラックな交渉を持ちかけた後にニヤリといやらしい笑みを浮かべた人物。
それは出勤したてで夜勤の看護師から昨晩の報告を受けたらしい福本さん。
”今頃、サカるの~?男子高校生でもあるまいし・・・” とすれ違い様に吐き捨てるように耳打ちされた。