【Hiei's eye カルテ45:新しい朝】
俺と伶菜
出逢いは兄と妹という関係
再会は駅で電車に飛び込もうとしていた女性と彼女を助けた自分という関係
そして、ついさっき伶菜から聞かされた
”結婚しようと思っている” という言葉によって
また兄と妹という関係をはっきりと認識させられた
『兄妹・・か。』
彼女の主治医を自ら降りようとした時も
そして、東京医科薬科大学病院を彼女達が退院し、同居を始めた時も
それらのきっかけは兄妹という関係を自ら彼女にチラつかせたことだった
『今頃、それが足枷になるとはな・・・』
自分の部屋のベッドに寝そべりながら、暗闇の中、天井をじっと眺める。
ずっと捜していた彼女が同じ屋根の下にいる
それが当たり前な今、
『タイムオーバー・・・・か。』
彼女が眠っているであろう同じ屋根の下で
苦しさを紛らすような溜息を付くことしか自分にできることはなかった。
『・・・そろそろ仕事、行かなきゃな。』
職業柄、隙を見つけたらどこでも眠る習慣がある俺なのに、自宅にいても昨晩は一睡もできなかった。
伶菜に ”出て行くな” と言ってしまいそうな自分
”傍にいろ” と言ってしまいそうな自分
”俺にはお前が必要なんだ” と言ってしまいそうな自分
妹である彼女の新たな第一歩を妨げそうな情けない自分をどうにかしようと、冷たいシャワーを頭の上から勢いよく被った。
『大切なのは・・・・・』
ザァーーーーーーーーーー
『伶菜が幸せになること・・・だろ?』
ザァーーーーーーーーーー
『彼女を幸せにしてくれるかもしれない人間が現れたことを安堵するのが、兄貴だろ?』
頭上から容赦なく降り注ぐ冷たいシャワー。
それを見上げるように顔を上げ、頬の上を流れ落ちる水を感じながら、俺は自分の口が紡いだその言葉を頭の中に浸み込ませるように必死に飲み込んだ。
自分の正直な想いが彼女のこれからの足枷にならないように・・・