物心つく前に父親を過労死で亡くし
たったひとりの家族だった母親を癌で亡くし
事情は知らないが、たったひとりで祐希を産んだ伶菜
ずっと苦労の連続だっただろう
孤独だったりもしたんだろう
『そろそろ幸せか。』
その彼女が自分の手で幸せを掴もうとしている
俺の自分本位な感情でその邪魔をしてはいけない
『・・・それでいいかもな。』
「・・・・・・・」
『お前が自分自身をしっかり見つめた上で選んだ将来ならば・・俺は・・・』
例え、その自分本位な感情を抱かせているのが
【伶菜のことが愛しい】という想いからだと気がついて
そして
その特別な感情が
自分の心の中にあることに初めて気がついてしまったとしても
『何も言うコトはない・・・よな。』
俺は素知らぬ顔で隠すしかないんだ
そんな俺に何か言えと俺の背中に被さりながら、胸をポコポコと叩く彼女。
そういう仕草すら、愛しく思えてしまう
でも今、ここで俺が本音を口にしたら
お前を困らせてしまうだろう?
その本音を聞き流すなんてそんな器用なこと
お前にはできないだろう?
だから、俺は
『イタイ、イタイって!どうしたんだよ、突然・・・』
部外者みたいな顔をするしかないんだ
何も考えていないフリして
そうでなきゃ、当事者になってしまったら俺は
自分勝手な気持ちを押し付けて
自ら幸せになろうとしているお前の邪魔をしてしまうだろう
「何か言ってよ、何でもいいから言ってくれなきゃ、手ぇ止めないから!」
だから、何でもいいから言えって言われたら
『・・・今日、天気良かったな、、とか?』
「そんなんじゃなくて」
『そろそろ携帯電話の機種変更しようとか?』
「・・そんなんでもなくて」
『祐希の好きそうなおもちゃを見つけたけど買ってくるか?とか?』
「・・・そうでもなくて」
『明日の夕メシ、お前の好物のクリームシチューを作ってやるかとか?』
「食べたい・・・そうでもなくて・・・先生、ふざけてるでしょ?」
トボけていることしか言えないよな
俺の本音とかを聞き流すことができないであろうお前と
意見を求められてトボけることしかできない俺は
どうやらお互いに不器用らしいから・・・



