「僕と高梨は高校時代からの友人で、僕の妻である早紀と高梨の奥さんだった詩織さんも同じ高校の一学年下で友人同士だった。」
東京の日詠先生は机の上で指を組み、その上に顎を載せたまま、ゆっくりとした口調でそう語り始めた。
「僕達はバスケ部の部員とマネージャーという関係で出逢い、そして僕は早紀と、高梨は詩織さんと恋に落ちたんだ。」
私は東京の日詠先生の口からすぐに日詠先生のコトが語られると思い込んでいた。
彼が日詠先生のコトを話さないばかりか
会話の時制までもを ”現在” からいきなり ”彼の高校時代” まで戻したコトによってちょっぴり肩透かしにあっている気分。
それでも、私にちゃんと知ってもらいたくて、丁寧に説明してくれている彼の話に耳を傾け続ける。
「そして僕は東京にある医大に、高梨は名古屋医大に進学し、一年後には早紀も僕と同じ医大に、詩織さんは名古屋にある幼児教育課程のある大学に進学したんだ・・・・そして、僕と高梨は研修医を終了してから2年で僕と早紀、そして高梨と詩織さんは結婚した。」
お父さんは日詠先生と同じ
名古屋医大に進学したんだ
「高梨と詩織さんは結婚したい時期が来たからと言って結婚したのに対して、僕と早紀は子供ができてしまったから結婚したんだ・・・」
早紀さん?
先生の奥さんだよね?
確か、早紀さんは先生と同じ医大へ進学したって言ってたっけ
「本当のところ、僕も早紀も、もうすこし医師としてのキャリアを積んでから結婚する予定だったんだがね・・・それに僕はボストンの大学へ外科技術の習得目的での留学が決まっていたのに、そんなことになっちゃってね・・・・」
一息つきながら、先生は氷がほとんど解けてしまっているコップの水をゴクンと一口飲んで再び口を開いた。
どこか遠いところを眺めているような瞳をしながら。
「でも、早紀は ”子供を産んでも、その子供を保育園に預けながら働けば医師としてのキャリアを積むことができるから・・・僕が留学しても、帰国するまでは一人で子供を産んでちゃんと育てていくから・・・だから、僕と結婚したい” って言ってくれたんだ・・」
早紀さんは東京の日詠先生のコト、本当にスキだったんだ
でなきゃ、彼の留学を中断させないように、ひとりで子供を産む決意なんてなかなかできない
ひとりで出産するって決めたのに不安でたまらなかった私だから
そう決意するのがいかに大変かはわかる



