【Reina's eye ケース37:懐かしさと秘密が入り混じるコロッケ】
久保先生が亡くなったこと
そして
それが発端となって表沙汰になった名古屋医大の医局員の完全撤退問題。
それらに日詠先生が苦しんでいた。
「伶菜さん、キミにも話しておきたいことがあるんだ・・・・」
その撤退問題が立ち消えするような影響を及ぼした人
・・・東京の日詠先生に声をかけられた。
『えっ?私に・・ですか?』
「といっても、僕、今から名古屋市内で仕事があるから・・・もし伶菜さんの都合がよければ夕方6時頃に西鶴舞駅に1番出口辺りで待っていてくれるかな?」
『西鶴舞駅・・・』
「食事でもしながら話そう。ご馳走するよ。もちろん祐希君もご一緒に。」
えっ?!
でも、もし日詠先生が帰ってきて
私達が自宅に居ないと、また余計な心配をかけちゃうだろうし
祐希もご一緒にっておっしゃって下さったけれど、
祐希は離乳食だし
でも、私に話しておきたいことも何であるのか気になるし
どうしよう
『離乳・・・』
やだ、あたしったら
何、口走ってるんだろう
「祐希君の離乳食のことならちゃんと手配するから。それに尚史も、今日も帰れないシフトだって病棟看護師さんが言ってたしね・・」
うわっ、東京の日詠先生ってば、ぬかりない
これじゃ、断る理由がなくなっちゃったじゃない
『それじゃ、お言葉に甘えても、いいですか?』
「喜んで。」
さっきまでの毅然とした態度が嘘のよう
日本一の技術を有していると言われている心臓血管外科医師
世界的にも名が通った大学医学部の教授
そんな肩書きがあるのに、もっと偉そうに威張っていてもいいと思うのに
そんな気配は微塵も感じない
それどころかこの人が持っているなんともあったかい雰囲気に
私は何度も救われた
さっき、三宅教授がこの人のことを ”変わった” っておっしゃっていたけれど
どう変わったのかな?
「じゃ、すまないがまた後で会おう・・・今日は特に寒いから冷えないように気をつけて来るんだよ・・それじゃ・・・」
東京の日詠先生は私が抱っこしている祐希の頭をそっと撫でながら彼に笑いかけ、私と福本さんをその場に取り残したまま屋上から姿を消してしまった。