【Hiei's eye カルテ34:寝落ち直前制御不能な俺】
データ処理方法の確認のために名古屋駅で待ち合わせしていた入江さん。
彼と伶菜、祐希と一緒にカフェでコーヒーを飲んだ際、久しぶりに会った入江さんと酒でも酌み交わしながらゆっくりと話でもしたいと思い自宅へ誘った。
「久しぶりだな。日詠の自宅にお邪魔するのは。」
『そうですね。でも、学生時代に住んでいた医大近くのアパートからは引っ越したんです。』
「確か医大は鶴舞だったから、今の病院から少し距離あるよな。」
『そうなんです。だから就職を機に引っ越しました。』
助手席に彼を、後部座席に伶菜と祐希を乗せて、名古屋駅近くのパーキングから自宅へ向けて出発した。
「あっ悪いけど、着替え持ってきてないから、今日、やっぱり帰ろうかな。」
『俺の服、着れますよね。下着は買い置きがあるので差し上げますよ。だから泊まっていって下さい。久しぶりに酒でも飲みながら話したいし。』
「じゃあ、ありがたく。」
入江さんが浜松に帰ろうとするのをまた引き留めた。
折角の機会だ。
これまで散々心配をかけていたであろう彼に安心してもらえる機会にもなると思ったから。
後部座席にいるはずの伶菜の声が聞こえなくてルームミラーでその姿を確認すると、彼女はチャイルドシートに乗っている祐希の小さな手を握りながらチャイルドシートにもたれかかり、うとうとしている
「疲れているところ、付き合わせて悪かったな。伶菜さん。」
『大丈夫ですよ。楽しそうでしたから。』
伶菜の声が聞こえてこないことが気になったのは俺だけではなかったようで、入江さんは後ろを振り返り目視で伶菜が眠っていることに気がついた。
伶菜は楽しそうだった
確かにそうだ
でも、正確にいうと “うっとりとしていた” のほうが表現として適切なんだろう
「寝顔もかわいいよな。」
『ダメです、伶菜は。もっと他に、女とかいるでしょ。』
そう言いながら、ルームミラー越しに伶菜の様子を確認し、すぐさま助手席の入江さんを軽く睨む俺。
「寝顔かわいいの、祐希くんのことなんだけど。」
『・・・・・伶菜もかわいいですよ、寝顔も。』
入江さんの “かわいい” の矛先が祐希であったのに伶菜推しが止められない俺。
「お前、完全に首ったけ状態だな。伶菜さんに。」
『首ったけって、初めて言われたな。』
伶菜が完全に眠りに落ちた今、俺達は小さく笑いながら家路を急いだ。