ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



「ほら、行くわよ。」

そう言った直後に掴んでいた日詠先生の襟から手を離した福本さんの表情。
それはさっきまでの陽気なモノから一変し、看護師長らしいキリッとしたモノに様変わる。


「・・ったく。」

そんな彼女の急激な変化についていけてない様子の日詠先生は、そう呟いた後に憮然とした顔をしながら両手の平を上に向け ”お手上げ” のポーズを取ってみせる。

明らかに機嫌がよろしくない日詠先生
そういう彼は初めてみるかも・・・

でも、福本さんにからかわれて余裕のない彼がカワイイ・・・なんて思っちゃった


「今、笑ったな?」

『そんなことな~い!・・・先生、会議、カイギ!!』

彼のことをカワイイなんて思ってしまったことが本人にバレるわけにいかない私は、さっき福本さんが消えていった方向を指差しながら彼に会議へ早く出向くように促した。


「あっ、マズイな・・・じゃあな!」

『行ってらっしゃい。』

「あっ、、今日は珍しく17時に仕事上がれそうだから久しぶりに夕飯、俺が作るよ。何がいい?」


楽しみ~!!!!!
今日の夕飯、作ってくれるんだ!!!!!


『ん~、何でもいいです。』

「そういうのが一番困るって・・・いつも言ってるだろ?」


一緒に住み始めてわかったこと
それは日詠先生は料理もかなりの腕前だということ

日詠先生の料理の腕前はメスを包丁に持ち替えても充分生計を立てていけそうなぐらいの相当なモノで・・・・

中でも彼の学生時代
勉強に忙しそうな医学生だったにも関わらず、少しでも生活費の足しにするためにと調理補助のバイトをしていたというイタリア料理はピカイチ

和食も中華も美味しいけれど・・・
今日は彼のピカイチを食べたい気分になった私



『ん~、それじゃ、名前の頭に ”ペ” がつくパスタがいいな!』

「頭に ”ぺ” か・・アレかな?わかった!楽しみにしててもいいぞ。」

『うん、楽しみにしてる。』

「じゃあ、気をつけてな。祐希、また後でな!!」


さっきまでの憮然とした顔が嘘のように、彼は私の大好きないつもの優しい顔に戻っていた。
そして、彼は先を行く福本さんの後を追って、病棟方向へ消えて行った。