首筋にまとわりついた髪に欝陶しさを感じる夏の白い昼下がりだった。

 

 小洒落た薄い水色のハンカチは、いつの間にかじっとりとした肌触りに変わり、佐伯雅(みやび)は白いシャツに透けた下着が辱めを受けているような気になって、背中に張り付いた布地を時折指先でつまんでは剥がすことに神経を使っていた。

 少しだけ涼もうか。ひりつくような太陽を細めた目で見上げると、雅は大通り沿いの喫茶店のドアを静かに押した。その拍子に鳴ったチリンチリンという音にビクリと細い首をすくめてはみたが、その音色が何やら懐かしい思い出の一つでも浮かばせて来そうで、奥の窓際に空席を見つけた私は思わずそこに腰を下ろしたのだ。



 冷房の風が私の躰を纏うようにゆっくりと流れ、胸元に吹き出した汗が冷やりとした雫に移り変わるころ、アイスコーヒ―とモンブランが私の目前にその姿を現した。私は、「ありがとうございます」と、聞こえるか聞こえないか程の声でお礼を言うと、若い女性の店員さんは小さな笑顔を浮かべた。居心地が良かった。店員さんが立ち去るのを静かに待ってゆっくりとアイスコーヒ―の白いストローに口をつけた。ほろ苦い味が喉を潤し刺激する。