でもそれらしき人影は見当たらず、動くものと言えば時折高く吹き上げる噴水くらい。
 私は妙に気になってもう一度よく目を凝らし遠く見える植え込みの辺りを見つめた。
 
「カノン?」

 セリーンがそんな私に気付いてこちらを振り向く。

「あ、ごめん。向こうにね、」

 指差しながら彼女に視線を向けたそのときだ。

「にいさま!?」
「え?」

 確かにそんな可愛らしい声が聞こえて、もう一度先ほどの場所を見る。
 すると植え込みの向こうに、先ほどは見えなかった人影があった。
 その人物がこちらに向かって駆けてくる。背の低い、あれは。

(子供?)

 そうか。きっとさっきは植え込みの向こうに屈んでいて、それで見えなかったのだ。
 そんなことに一人納得していると、

「デュックス……」

王子が低く呟いた。

 デュックス。そして、“にいさま”。
 あれがツェリウス王子の――。

「あ!」

 思わず声が出ていた。セリーンやアルさんの声も重なった気がする。
 まだこちらまで距離のある噴水の辺りで、その小さな王子様が前のめりに転んでしまったのだ。