「……やっぱり、私待ってた方がいいかな。セリーンとそこの街で」
「ダメだ」
「え?」

 すぐに返ってきた声に顔を上げると、ラグが立ち止まり再びこちらを睨み見ていた。先ほどよりも酷く不機嫌そうな顔。

「オレから離れるな。そう言ったはずだ。……さっさと服を手に入れて戻るぞ」

 そして彼は再び前を向き、足早に歩き始めた。

「なんだアレは」
「!?」

 いつの間にか真横にセリーンがいて驚く。
 彼女はラグの背中を見つめながらふっと笑った。

「オレから離れるな、か。あの子に言われてみたいものだ」
「ち、違うよ? そういう意味じゃなくって、そのまんまの意味だよ!?」
「どういう意味だ?」

 セリーンに可笑しそうに問われ、自分でも何を言っているのだろうと思った。
 顔が赤くなっていることを自覚して、妙な焦りを覚える。
 前に言われたときもそうだったけれど、いきなりああいうことを言われるとびっくりしてしまう。いつも無愛想で、そういうことを絶対に口にしなさそうな彼だからこそ。

(だから、彼にとっては本当に単に離れるなっていう、そのままの意味なんだろうけど……)

「いいのか?」
「え?」

 セリーンを見上げる。

「あの男についていくのか?」

 遠のいていく背中を見ながら考える。

 ――もしここで、やっぱりどうしてもお城には行きたくないと言ったら、彼はどうするのだろう。