「それといい加減、その苗字呼びもやめるように。でないとまた母さんたちに笑われるぞ?」

「……そうでした」

 この数ヵ月、色々なことがあった。シンガポールから彼のご両親が一時帰国され、初めて挨拶をすることができた。

 ふたりとも歓迎してくれて、『誠司のことを、どうぞよろしくお願いします』と頭を下げてくれたんだ。

 受け入れてもらえたことが嬉しくて、泣いたのは言うまでもない。

 その時にいつものように彼を『村瀬さん』と呼ぶと、ふたりに笑われてしまった。『これからさくらちゃんも、村瀬になるのよ?』と言われながら。

 それから「誠司さん」と呼ぶようにしたんだけれど、なかなか苗字呼びが抜けず、咄嗟にこうして呼んでしまうこともしばしば。それでも少しずつ名前で呼ぶことに慣れてきた。

 そして彼のご両親は、わざわざ栃木まで出向いてくれて、うちの両親に挨拶をしてくれた。

 そのためだけに帰国してくれたようで、一度だけ誠司さんの弟、将生さん夫婦と五人で食事をし、慌ただしくまたシンガポールに戻っていったんだ。

 仕事は無理のない範囲で続けている。安定期に入り、子供も順調だけれど弥生さんたちがなにかと私を気遣ってくれて、本当にありがたい環境の中で仕事をさせてもらっている。