「光雅くんごめん! もう行かなきゃ! 授業、始まっちゃう」


 私は早口でそう言うと、逃げるように体育倉庫から出ようとした。

 光雅くんからは、呼び止める声は聞こえなかった。

 彼も授業の時間には遅れるわけにはいかないから、私を引き止めることはできなかったのだろう。

 そして私は女子更衣室で急いで着替えて、教室に戻った。

 次の授業は既に始まっていたから、「遅れてすみません」と軽く先生に謝罪をして、席に着いた。

 その数分後、光雅くんも教室に入ってきた。

 彼も先生に小さく頭を下げると、私の隣の席に着いた。

 その授業の時間、私は光雅くんの方を見ることはできなかった。

 ――逃げてばっかりだ。私は。