学校から2つ目のバス停。裕斗のバス停。幸い、他に人はいない。私は自転車を邪魔にならないように隅に駐めた。裕斗のバスが来るまで、あと10分くらい。

『あのさ』

深呼吸をして、落ち着いて。泣いたり、ヒステリーを起こしたりしないように。

『うちら、別れようか?』

「は?」

言いたいことはいっぱいあるはずなのに、何て言ったらいいのか分からない。言葉が見つからない。

「え、マジで言ってんの?」

『うん、本気。大まじめだよ』

「...もしかして、さっきのあれ、本気にしてんの?」

裕斗の茶化すような言い草に、ますます気持ちが冷める。

「......」

「冗談に決まってんじゃん!」

裕斗をジロリと睨みつける。冗談だったら、何を言ってもいいワケ?冗談でも、人と一緒になって人をけなしていいワケないじゃん!もし、周りに流されて人をけなしたのなら、意志が弱いってこと。私の中の彼は、「カノジョの陰口を言う男」。周りに流されて陰口を言うなんて、情けない。謝る気もなさそう。男としても人としても、サイテー!

「ふざけないで」

思いのほか、抑揚のない冷たい声が出た。冷たい空気が流れる。

キー

気まずい沈黙を破るように、バスが来た。

「それじゃーな」

彼はこちらを振り返ることもなく、手だけ振ってバスの中に消えて行った。私は、彼が乗ったバスとは反対方向へ自転車を走らせる。

空気の冷たさが沁みる。
ペダルが重い...