「失礼しましたー」

日誌と小テストのやり直しを提出して、職員室を出る。退室際に時計を見れば、もう6時だ。小テストのやり直しに時間がかかってしまった。外はもう薄暗くなっていて、開いた窓から入って来る空気が肌寒い 。

早足で、彼氏の裕斗が待つ教室に向かう。

教室のほうから男子たちの声がして、私は耳をそばだてた。


「つ〜かさ、望月ってまな板なのにケツでかくね〜?」

1人がそう言う声が聞こえた。
それだけでもショックなのに...

「マジやろ〜」

裕斗がそれを肯定したのだ。その瞬間、私の中で「彼氏彼女」という肩書きにヒビが入った。私が小さい頃お母さんがよく聴いていた、山口百恵の「横須賀ストーリー」が頭の中で流れ始める。


「歯ガタガタだしな〜」

「しかもデコ広すぎやろ、ハゲやし。
マジ、キモ〜」

裕斗の声だ。
裕斗がそう言ったんだ。
私のこと、そういう風に思ってたんだ...?
これっきり、だね。

「ハハハハハ」

ねっとりとした3人の不愉快な笑い声が、人気が少なくなった教室に響いた。

アドレナリンがいっきに体中を駆け巡る。何とか平静を装って教室に入って行くと、裕斗を含む3人は一瞬しーんとなった。


「遅くなって、ごめん!」

人と一緒になって、恋人の悪口を言うなんて...
そんな男とは、付き合ってられない。
私が自分から、この関係に終止符を打ってやる!
決意を胸に、彼と一緒に教室を後にする。