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子どもの頃の夢を見た。
わたしは花畑のような場所にいて、そこにはもう1人。顔も名前も思い出せない男の子がいた。
舞い上がる風が花弁を空へと送り届ける。その様子がとても綺麗で、わたしたちはいつまでも空を仰いでいた。
目を覚ますと隣から「ニーナちゃん!?」とわたしの名前を呼ぶ声がした。
「サミュエルさん?」
ぼんやりとした意識のなかで名前を呼ぶと彼の表情に安堵の色が広がったのが分かった。
「ああーん、もうごめんなさいね! 全く、イリスさんまでその場にいながら、なんでことしてるのかしら!」
「あ、そうだわたし……」
ピノくんに投げ飛ばされた直後に頭に何かがぶつかってそのまま気を失ったんだ。
「意識はしっかりしてるかしら、ここがどこか分かる?」
「ホワイト・アリス号です」
「あらあら。ちょっと腫れちゃったかもしれないわ。痛む?」
「いえ、大丈夫です」
窓の外が暗くなり始めている。
そんなに長い時間寝ちゃってたんだ。この船にいられる時間はもう僅かしかないと言うのに、とても残念。
「ピノが心配してたわ。自分のせいで怪我をさせちゃったって」
「そんな、わたしが弱いからいけないのに」
「それでも。下のものに怪我をさせないのが上に立つものとして責務よ。謝らせてあげてちょうだい。確かに今回のことには、ピノに責任があるわ」
「……はい」
サミュエルさんの静かな言葉。
そこにはわたしには理解しきれない組織として生きるために必要なものがあるように思われた。
「まずはこれを飲んでちょうだい」
「……これは」
「サミュエル姉さん特製、愛情たっぷり鍋ココアよ。元気が出るおまじないに、マシュマロも入れてあげる」
「ふふ……」
なんだかサミュエルさんは本当にお姉さんって感じがする。男の人であることを忘れてしまいそうだ。
入れてもらった鍋ココアはひと口飲めば心の中までほっと温かくなるような優しい味がした。
「ありがとうサミュエルさん」
「良いのよ、可愛い女の子に優しくするのがわたしのモットーだもの」
そう言って彼はニコニコと柔らかな笑みを浮かべていた。
「そう言えばニーナちゃん。イリスさんが目が覚めたら1度自分のところに来て欲しいって言っていたわ」
「イリスさんがですか?」
「それ飲み終わったら向かってあげてくれる? 測量室の場所は分かるわよね」
「はい、昨日ルドルフさんから教えてもらったので大丈夫です」
イリスさんが私に、なんの用事だろう?
ココアを飲み終えてから、私はサミュエルさんにお礼を言って医務室を後にした。
「あ」
「うわぁ!?」
