「ここ」

 彼に案内されて到着したのは大きな広間のような場所。奥にはキッチンが併設されていて、給仕当番らしき数名の構成員たちが慌ただしく動き回っている。

「あれ……?」

 給仕をしている構成員の中には、私も知った人物の姿があった。

「てめぇら、ベーコンは1人2切れまでって言ってんだろうが!! ルールが守れねぇなら朝飯食わねぇで便所の掃除でもしてろ!」

 飛び交う怒号の発信源は、なんと。
 副船長のカルロスさん。

 彼が身につけているピンク色のエプロンを前に思わず目をぱちくりさせてしまう。

 カルロスさん……に、似合うな……ピンクのエプロン。すごく似合ってる……。


「おはようございます。ピノ、ニーナくん」
「おはー」
「お、おはようございます! えっと、イリスさん」

 ぼんやりしていた私に声を掛けてくれたのは、眼鏡の男性。航空士のイリスさんである。
 名前を呼ぶと彼はニッコリと柔らかな笑顔をこちらに向けた。

「おや、覚えていただけて嬉しいです。そんなところに立っていないで、貴方もこっちにいらっしゃい。朝ごはんを貰いに行きましょう」

 イリスさんに促されるまま、私は奥のキッチンへ続く列の最後尾に並んだ。

「イリスさん、なんでカルロスさんがキッチンに立っているんですか? カルロスさんって確か副船長さんでしたよね……?」
「確かに、本来ならばキッチンに立つのはコックの仕事ですが、あいにくウチにはコックがいません。というかカルロスがコック同然の役割を果たしているので、レオンも本業の者を勧誘しそびれたそうです」
「そうなんですか……」
「カルロス曰く、元々の趣味なんだそうですよ。ご飯を作るのが」

 なんだか少し意外な気がするような、そうでもないような。
 昨日話していた厳格な男性としてのイメージからは離れているようにおもけど、今、キッチンに立っているカルロスさんの姿はとても様になっている。

「もちろん流石にこの人数の食事全てを彼に作らせる訳にはいきませんから、我々も当番制で手伝っているんですけどね」
「じゃあボクも少しはお手伝い出来るかもしれません」
「お料理はお得意ですか?」
「得意ってほどではないんですけど、父と二人暮らしだったので。小さい頃から良く作っていたんです」
「それは良かった。カルロスもまともな人手が足りないと嘆いていましたから。3日ばかりとは言え、君が手伝いに入ればきっと喜ぶでしょう」