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 空賊団ジャバウォックの母船ホワイト・アリス号は、アグロト州に隣接するキトリール州へ向けて風壁上空を航空していく。
 キトリール州までの3日間。倉庫の隅が私に与えられた生活スペースになっている。

 寝床代わりの麻袋からのろのろと起き出し、欠伸をひとつ。色んなことがあって混乱していたせいか、思っていたよりもゆっくり眠ることが出来た。

 手鏡を覗き込みながら寝癖をくしでとかしていく。

 ううん……髪を短くすると寝癖、直しにくいな。こんなにバッサリ切っちゃうんじゃなくて、ちょっとでも結べる長さに切れば良かった。

 いくらとかしてもとかしても、ピョンとはねた右の毛先が直る気配は見えてこない。

「はあ……」

 これはもう諦めるしかない。

 寝癖との攻防戦に白旗を上げて立ち上がったその時、部屋の扉をノックする音が鼓膜を揺らした。

「は、はい!」

 慌てて出るとそこにいたのは小柄な少年。

 えっとこの子は確か、戦闘員の……。

「ピノくん、だよね」

 昨晩、サミュエルさんからされた説明を思い出す。ジャバウォックにはレオンを中心にした6人の幹部がいて、組織はその6人を中心にして回ってるんだっけ。そしてこのピノくんは幹部の1人。

「馴れ馴れしい」
「ご、ごめんなさい」

 大きな目にギロりと睨みつけられて思わず尻込みをする。

「…………朝ごはん。行くよ」
「わた……ボクも一緒に行って良いんですか?」
「ご飯は基本、出来る限りみんなで。ジャバウォックのルール。一時的にでもこの船に乗るなら、守って」

 ピノくんの言葉に思わず目を見張った。
 空賊なのに、ここではとても温かいルールが定められてるんだ。