『〇〇銀行の登録に使った印鑑。取りに行きます。』
『いつきますか?』
『明日行けたら行きます』

敬語でのメールのやり取り。
飯村良助はまだ戸籍上の妻である飯村若葉にメールを送ってから深いため息をついた。

離婚へ向けての手続きを着々と進めながらお互いに必要な話もメールでのやり取りだけになっていた。もう、どのくらい妻の声を聞いていないだろうか。

大学で知り合ってから付き合い始め結婚をして、ずっと一緒に過ごしてきた妻の若葉。

でも、離婚前はお互いにほとんど顔を合わせても話しすらしなくなっていた。

それでも自分たちがまさか別れることになるとは思っていなかった。

良助は大手広告会社の営業をしていて、休日も接待ということが多かった。

仕事だからと家を空けることが多くていろいろとおろそかにしていたかもしれない事実はいなめない・・・。

もしも子供がいたら、こんな未来ではない未来が待っていたのだろうか・・・