自分の手が震えていることに気付く。


だって、あんな拓、はじめてで。

ちょっと前までは穏やかで、わりと大人びていて、姉のわたしよりしっかりしてる、なんて言われるような子だった。


こんな乱暴なことをするなんて。

あんな恐い顔で怒鳴るなんて。


小さい頃から仲良し姉弟で、わたしは誰より拓のことを知っているつもりだった。


でも……

いまはもう、拓のことがよくわからない。


受験が終わったら、きっと元の仲の良い兄弟に戻れる。

そう思っていたけれど、そんな簡単なことじゃないのかもしれない。


ようやくそう、思い至った。


別人になったような弟にとってたぶん、わたしはもう姉ではなくなってしまった。