平くんは―—いた。
前の方の席で、スマホをいじっている。
その平くんがちらりと、私を見た。
思いきり目が合ってどきっとしたけど、彼の黒い瞳はすぐにスマホに戻ってしまった。
いつもの無表情にも変化はない。
あれ……?
やっぱり夢だった?
彼と食べたパスタの味はしっかり覚えてるのに、夢だった?
夢……だったのかあ。
「……だよねえ」
ぼそりと呟いて、肩を落としながら自分の席に着く。
やっぱり夢だったかあ。
妙に私にとって都合が良すぎると思ったんだ。
ちょっと疲れているのかもしれない。
テストもあったし、学校でも家でも周りは受験でピリピリしていて、何をするにも気をつかうし。


