走るのにスリッパは向かなくて。
左足のスリッパが脱げて転がったので、右足のスリッパも蹴飛ばすようにして靴下だけで走った。
でもハイソックスは滑り易くて、結局何度も転びそうになって。
それなのに、
息を切らして辿りついた教室にも、彼の姿はなかった。
無人の教室は温かな光りで照らされているにも関わらず、寒々しい。
もうわたしのいる場所ではないと、漂う空気に距離を感じた。
ひたひたと、冷たい床を進み、今日まで自分の席だった場所に立つ。
少し傷のあるその机は、4月からは別の誰かのものになる。
その誰かはここでまた、受験という名の戦争に、必死に勝とうと努力するんだろう。
がんばれ。
負けるな、がんばれ。
未来の誰かに、そうエールを送った。


