「あの頃確かに、わたしは聡くんに片想いしてました。図書館で勉強を教えてもらってから、テストが終わって図書館に行かなくなっても、ずっと見てました」
卒業証書の筒をギュッと握る。
その手はかすかに震えていた。
「でもそれは片想いのまま静かに終わってたんです……」
1年以上の時の中に、ゆっくりと、音もなく、溶けるように終わっていた。
いまは淡い思い出として、記憶の中に残るだけ。
時折思い出して懐かしむことはあるけど、それだけだ。
「だから、ごめんなさい。それと……ありがとう」
聡くんはいつの間にか、笑顔を消して真剣なまなざしをわたしに向けていた。
表情の消えた彼は、見慣れたと思っていたわたしでも、一瞬間違えそうになるくらいお兄さんに似ている。
そのせいで、鼓動が少し乱れるほど。


