「あおーげばー、とおーとしー、わがーしのーおんー」
有名な卒業のうたをくちずさむ。
有名と言ってもこの部分の歌詞しかわたしは知らない。
でも静かな校舎にぴったりな、穏やかな寂しさを落とす歌だと思う。
その歌詞を繰り返しながら、ゆっくりと階段をのぼる。
スリッパが途中何度か脱げそうになった。
早くも上靴が恋しい。
屋上の手前の踊り場で、立ち止まった。
窓からは階段を照らす春の日差しが、まるで天使の梯子のようにおりている。
平くんの姿はそこにはなかった。
なんとなく、ここにいるんじゃないかって。
同盟を組んでから、昼休みを一緒に過ごしたここにいたらいいのにって。
そう期待していたのでがっかりしながら、いつも座っていた段に腰かけた。


