なんでわたし、バレンタインのあの帰り道、彼にチョコレートを渡さなかったんだろう。
渡せばよかった。
ムダだとか、木内さんに悪いとか、平くんが困るとか。
そんなことは全部遠くに放り投げて、ただ渡せばよかった。
せめてありがとう、とだけ言葉にして。
この溢れだして止まらない、とめどない想いをつめこんで、渡したらよかったんだ。
ほんと、バカだなぁ。
可哀想なくらいバカだ、わたしは。
「平くん。わたし、がんばってくる!」
「うん。行ってらっしゃい」
「ありがとう! 行ってきます!」
いまだうつむいたままの彼に大きく手を振って、いざ卒検へ。
ハートのチョコをつまんで、
“好きです”
と唱えながらその甘さを味わった。


