そう言って平くんがコートのポケットから右手を出すと、そこには赤いお守りが。
“合格祈願”って刺繍がしてある。
「これ……」
「交通安全と迷ったんだけど。今回はこっちかなって。はい」
「え。は、はいって、これ、くれるの?」
無表情でうなずく平くん。
手渡された小さなお守りは、平くんの温もりが残っていて、思わず泣きそうになった。
さっきまでは絶対落ちると思ってたけど、いまはもう絶対大丈夫って思ってる。
わたしってなんて単純だろう。
「あと、これも」
続いて差し出された彼の左手には、見覚えのある茶色の箱。
平くんが昨日までバイトで配置されていた、高級チョコレート店の小さな箱だ。


