殺到するお客さんの間をかいくぐって、倉庫へ走る。

バレンタインは体力勝負の日だなんて、初めて知った。


ちらりと平くんのいるブースを見ると、にこやかに女性客に接客する彼がいてもやもやした。

ただ彼は、まじめに仕事をしているだけなのに。

普段無表情な彼が、滅多にみせない笑顔を安売りしてるみたいでイヤだった。


なんて身勝手な感情だろう。

恋って、こんなものだったっけ。

身勝手で、かっこ悪くて、どうしようもない感情のループ。


自分が嫌いになりそうだった。


わたしもお客さんになったら、あんな風に無条件で笑顔を向けてもらえるだろうか。

それならわたしは、10個でも20個でもチョコを買うのに。


1粒400円もする高級なチョコだって、この短期のアルバイト代全部つぎこんで買うのに。