でも、そんな人なのに、木内さんがそんな人だってわかってるのに。
平くんは自分から、やり直そうって言ったの?
「だからね、春川さん。勘ちがいしないでね?」
「……なんですか、勘ちがいって」
「わたしと篤は“いまは”付き合ってないけど、仮確定の関係だから。篤と仲良いみたいだけど、わきまえてよね」
そう言うと髪をばさりと手で払って、木内さんは上靴にはきかえ行ってしまった。
甘いシャンプーの香りが、砂っぽい玄関に残る。
仮確定の関係。
それはたとえ仮であっても、卒業までの期間限定であるわたしたちの関係よりも強いものに思えた。
身を引くべきだ。
常識的にはそうするべきだ。
わかっているのに、心がそれを拒絶する。
いやだいやだとわがままを言う自分を抱きしめた。


