「あのさ! 今日、駅前の本屋行った……?」
拓が階段の途中で足をとめる。
振り返り、わたしをあおぎ見る目は冷めていて、そこに焦りとか動揺はまったく見付からない。
「は?」
「いや、えっと。今日拓っぽい男の子が本屋から出てくるとこ見たから」
「……行ってないよ。見まちがいだろ」
そっけなく言って、今度こそ拓は1階に下りていった。
その背中を見送って、詰めていた息を吐く。
睨まれたけど、ちゃんと話してくれた。よかった。
でも……見まちがい?
本屋にいたのは確かに拓だった。
なのに拓は行ってないって嘘をついた。
嘘をつくのは、やましいことがあるから……?


