拓が、万引き?

真面目で、学校も皆勤で、非行って言葉とはまるで縁のない拓が?


そんなまさか。

自分の目が信じられない。


きっと何かのまちがいだ。

棚の影に行った時に、漫画は別の場所に置いたんだ。

きっとそう。


だから拓は、万引きなんてしていない。


そう思うのに、思いたいのに、わたしの手は小刻みにふるえて止まらないし、涙も出そうだった。



「春川さん」



名前を呼ばれ、大げさなくらい肩がはねた。


平くんがひょいと、顔をのぞきこんでくる。

視界いっぱいに広がったのは、いつもと変わらない無表情できれいな顔。



「大丈夫? ……手、ふるえてるね」



両手を彼の手でぎゅっと強く包まれた。