夢見心地って、こういうことを言うんだと思う。
まるで床に足がついていないようなふわふわした感覚。
とうの昔に置いてきた恋心が、かすかに息をふきかえすのを感じた。
「春川さん」
「え。わっ」
ズンズンと歩いていた平くんが急に立ち止まる。
手首をつかまれたままだったわたしも、ぶつからないよう慌てて止まった。
バサリとフードを外した平くん。
露わになった顔はいつもの無表情じゃなくて、明らかな苛立ちが浮かんでいて、ギクリとした。
どうして……。
わたしは、平くんまでイラつかせてしまうのかとショックを受ける。
弟の平くんへの昔の気持ちなんて一瞬で吹き飛んでしまうくらい。
「春川さんは、」
「……っ!」
何か言われる。
そう思って咄嗟に身構えてしまった。


