少し下にある踊り場から、平くんがこっちを見上げ首を傾げた。
表情の変化に乏しい彼の顔にも、心配の色がうかんでいて。
わたしは温かい気持ちになって、首を振った。
「泣いてないよ」
「泣きながら言われても」
困ったように平くんが言うから、あわてて目元をぬぐう。
しまった。
手にベトベトが残っていたのを忘れてた。
「前も言おうと思って、言わなかったんだけど……」
「うん? あ。わかった。わたしがバカだって言いたいんでしょ?」
「いや、春川さんはバカじゃないけど……おひとよしだよね」
おひとよし?
はじめて言われた。
わざわざ自分を嫌ってる相手のところに行くのを、おひとよしって言うんだろうか。


