大きく包丁を振りかざす。
上から落とすように、俺は父さんの背中に包丁を突き刺した。
「……ッ!?うあぁぁぁぁぁ!!!」
部屋中に、父さんの叫び声が轟く。
その瞬間、母さんの首から父さんの手が離れた。
四つん這いのように床に崩れ落ちた父さんの背中に、続けて二度三度と包丁を突き刺す。
死ぬのはお前だ、いなくなればいいのは、お前だ!!
確かに俺はそう思ったんだ。
そう思いながら、刃物を振りかざし続けたんだ。
あの時の俺は、どんな表情をしていたんだろう。
怒りに満ちていたのか、それとも倒れ込む父さんの姿を見て嘲笑っていたのか。
自分ではわからない。
母さんがその時、どんな顔をしていたのかも。
「もうやめて!!!」
その声が俺に届いたのは、父さんをめった刺しにして辺りを血の海に変えた後だった。
既に父さんの息はなく、血まみれになってうつ伏せに倒れていた。
自分が手に持つ包丁に目をやると、刃の半分以上は血の跡が付いていた。
服は返り血で染まり、俺の息は切れていた。
カラン、と包丁を床に落とす。
……俺……は……父さんを…………。
正気に戻った時には、自分が恐ろしかった。
自分がこんなことをする時が来るなんて、想像もしていなかったから。
すぐ近くで、母さんのすすり泣く声が聞こえた。
「……もうやめて、やめて…………」
母さん…………。
俺は母さんの所に歩み寄り、「……大丈夫……?」と尋ねる。
すると、母さんは俺をガバッと包み込むように抱きしめた。
「…………うっ…………もう……こんなことしないで…………」
声を出して泣きたいのを我慢して、押し殺したような、喉を詰まらせたような、そんな声で……母さんは俺にそう言った。
殺してしまった。父親を。
刃物に感情を入り混ぜて、残酷に殺した。

