夜九時を過ぎても、川奈さんの部屋の電気はついていない。

対局が終わったのは七時前。
感想戦が長くなっているのかもしれないし、憂さ晴らしに飲みに行っているのかもしれない。
いつかのように「もう死ぬ~~~」と言って騒いでいてくれればいいけれど、今日は違うような気がした。

九時半を過ぎて「出掛けてくる」と言っても、ちなちゃんは行き先も理由も聞かなかった。

アパートの周りをふらふら歩いて、わけもなくコンビニに入って、新商品のお弁当のおかずをチェックして、意味なくトイレを借りて、またアパートまで帰って、川奈さんがいないことを確認して、ゆっくりゆっくり歩いて、コンビニに入って、お菓子メーカーとコラボレーションしたオリジナル商品に心惹かれて、またトイレを借りて、我ながら愚かなことをしてるなと思いながらアパートまで戻って、川奈さんがいないことを確認して、もう一度ふらふら歩いた。

どうしようもなく会いたかった。
かける言葉のひとつもないのに、迷惑だとわかっているのに、こんなときはそっとしておくしかないと知っているのに、それでも会いたかった。

師走の夜風にさらされても、その熱が冷めることはなく、冴え渡る夜空は想いを一層募らせた。

意識しなくても会えるときは会えるのに、会いたいと思うと不思議と会えない人だ。
何も買うことなく三回目のコンビニに入って、三周目になる店内探索を丹念に行った。
これで会えなければ帰ろう。

クリスマスの欠片も残っていない店内には、年賀状やポチ袋のコーナーが目立つところにできている。

「あ、お年玉」

有理くんが好きなのは、アニメキャラクターなのか、ゲームキャラクターなのか、それとも新幹線や車がいいのか。
有理くんの好みを考えていたはずなのに、ふたりは一緒にお風呂に入ったんだっけ、と思い出す。
おでんを買って行く人がいると、川奈さんに会えたら、あの味の染みた大根を一緒に食べたいな、と思う。
いつだったか一緒に食べた二色のミニロールケーキは、アップル&シナモンとストロベリー&クリームチーズに変わっていた。

あたたかい飲み物が並んでいる保温ケースの隅で指先をあたため、その指先がすっかり温まっても、まだ迷っていた。
一周して会えなければ最後にしようと決めたのに、諦められない。
でも、自宅まで会いに行く勇気もない。