先日買った靴は濃いめのベージュで、コーラルピンクのワンピースとも、黒いラメのバッグともよく馴染んだ。
靴に合わせて購入したエクリュのストールを羽織って、エントランスで“彼氏”を待つ。

屋根と屋根の隙間から見える空はピンクグレープフルーツ色なのに、肌は汗の膜で覆われてベタベタする。
さっき吹き付けたばかりの制汗剤は、もう流れただろう。
たまに入り込む風も、ワンピースの裾さえ動かせないほど弱々しいものだった。

「こんにちは……こんばんは、かな?」

背後からやってきたのは、本来の待ち人ではなかった。

「こんばんは」

「結婚式、今日なんだね」

「うん」

川奈さんは相変わらずロックしていないポストから、夕刊とチラシをまとめて取り出した。
そしてはずみで落ちたDMのハガキを、面倒臭そうに拾い上げる。
クリーニング店のセールのお知らせらしい。
どれほどの重要事項が書かれているのか、そのハガキを丹念に読んで、私とは目を合わせない。

「白取くんとは、うまく行ってる?」

ハガキから目を離さず、川奈さんが言った。

「たぶん」

「やさしくしてくれてる?」

「それなりに」

「それなり?」

「お互いビジネスみたいなものだから」

「あれ? そうなの? てっきり……」

ハガキをうちわみたいにピラピラ振って、川奈さんは何か考えているようだった。
その風は前髪を少し揺らしているものの、涼しそうには見えない。

「『てっきり』?」

「……てっきり、弥哉ちゃんは、いい車に乗りたい人なのかなって」

「うーん……この前白取さんの車に乗せてもらったけど、」

「乗ったの!? もう!?」

川奈さんが驚いたので、私も驚きながら答えた。

「うん、乗った。けど、思った以上に不便だった。私は普通でいいや」

目の前の道路を白いセダンが通り過ぎた。
スーパーの駐車場に行けば、似たような車が何十台もある。
私は別にあれでも不満はない。
“エターナル・ブラックパール”じゃなくて“白”でいい。
なんなら車はなくてもいい。

「弥哉ちゃんって、イケメン好きじゃないんだね」

「元彼の画像見たでしょ?」

「そうだった」

川奈さんは思い出し笑いで爆笑している。

「イケメンでも好きになるかどうかは別問題」

「じゃあ何が問題?」

「……………………お金かな」

「あはは!」

DMを新聞の間に適当に挟んで、川奈さんは強くなってきた西日に目を細めた。
夕空色に染まる顔に、笑顔はなくなっていた。

「だったら、タイトルホルダーにならないとな」

いろんな言葉が省略されたそれは、唐突で意味がわからないはずなのに、気温とは違う熱が身体を包んだ。肌の表面が敏感になってピリピリする。