センチメンタル・ファンファーレ



夏休みも終わりとあって、ショッピングモールは混んでいた。
駐車場に停めるのも時間がかかり、予想以上に遅い到着となった。

「じゃあ、私は靴見てくるから、あとで連絡取って待ち合わせしよう」

効率を考え、入ってすぐに見えた靴屋に向かいながら言うと、右手首をグッと掴まれた。身体が前につんのめる。

「デートの意味ない。面倒だけど靴選びも付き合うよ」

「面倒ならいいって」

「その代わり俺のスーツ選びも付き合って」

「面倒だなあ」

「男女交際は忍耐でしょ」

ええええええっ!! と批判する私の手を引いて、縁くんはさっさと靴屋に入っていく。

「どんな服着るの? 撮ってきた?」

事前に当日着ていく服を撮影しておくように言われていたので、今朝慌てて撮った画像を見せた。
ワンピースは襟元が黒のレース仕立てで、胸の上からコーラルピンクに切り替わる。
それに黒のストールを合わせるつもりだった。
「昔一回着たけど、似合わなかった」とちなちゃんから譲られたものだ。

「これだとベージュ系かな」

ワンピースのデザインにも、映り込んだベッドにも触れず、縁くんは必要な情報だけを頭に入れる。

「黒がいい。使い回しきくし、ストールも黒だから」

仕事にも履いていけそうなシンプルな黒のパンプスを手に取っていると、縁くんがそれを奪って棚に戻した。

「黒なんてダメ。重い」

「九月だもん。重くてもいいじゃない」

「九月頭なんて残暑きついのに黒はない。ストールも合わせて今日買おう。偽の彼氏用意するなんて虚しいことしてるんだから、服装くらい隙のないようにした方がいいよ。あ、あれは?」

殴られたように項垂れている間に、縁くんはベージュや白、カスタードなどいくつかピックアップしていた。

「何cmだっけ?」

「23.5」

“面倒”だからと付き添いに徹するのではなく、さっさと終わらせるタイプらしい。
私をそっちのけで店員さんからサイズを出してもらい、何度も画像と見比べる。

「これにしよう」

言われるがまま次々履き替えていた私は、改めて足元を見て驚く。

「8cmヒール!? 嫌だよ、使いにくい」

「仕事向きじゃないけど、デニムにも合うし、デートに使えば?」

「予定ない」

「なんで? 俺いるじゃん」

屈んで私の顔を覗き込む。
その距離約15cm。
パーソナルスペースを自在に行き来しても、嫌がられないってわかってる笑顔だ。

心拍数が上がる。
顔も赤くなる。
バレているだろうけど認めたくなくて、持っていた靴の箱で、その整った顔を押し戻した。

「まあ、いいか。値段も手頃だし」

私の反応に、縁くんは満足気に笑う。

「靴擦れ対策の絆創膏は用意した方がいいかもね」

「詳しいね。靴擦れされて面倒なことになった過去でもあるの?」

「まあ、いろいろと」