中一日のお休みを挟んだ三日目のカレーは、しつこく炒めた玉ねぎのおかげなのか、ルーを入れただけですでにおいしかった。

「ねえ、ちなちゃん。もうトロトロなんだけど、ルー足した方がいいかな?」

「トロトロならいらないんじゃない?」

「でも虹湖さんがルーはメーカー変えていろいろ入れた方がいいって」

スパイスは種類が多い方が当然複雑な味になる。
メーカーや商品によってスパイスの種類も産地も違うから、組み合わせて入れた方がいいのだそうだ。

「じゃあ入れたらー?」

「でも煮詰まったらしょっぱいよね」

「じゃあやめたらー?」

「もうーーーーっ」

本来ならルーを入れたあと一日寝かせるのだけれど、そこは省略して、コトコト煮込む。
カレーはすぐに焦げ付くので、イヤホンで音楽を聞きながらかき混ぜ続けた。

「それ夜に食べるんでしょ? 火止めてほっといたら?」

「……え? 何?」

イヤホンを片方はずして聞き返したけれど、

「何でもなーい。好きにやりな」

と言われた。
もう一度イヤホンをつけ直して、レードルをゆっくり回す。
トロトロではあるけれど、ご飯にかけるには少しゆるい。
ちょうどよくなるまで煮詰めたらいいのか、ルーを足したらいいのか。

「ひとかけだけ入れよう」

三種類目のルーをひとかけだけ入れて、棚にしまおうとしたら、冷蔵庫の陰に妙な圧迫感があった。

「きゃああああああ!!」

「うわああああああ!!」

この家にあるはずのない男性特有の圧迫感は、川奈さんのものだった。
イヤホンをはずすと、「はあ~びっくりしたあ」と声が聞こえた。

「おいしそうな匂い。カレー?」

高いコートを着こんだ川奈さんは、まだ動けずにいる私のそばまでやってきて、レードルをぐるぐる回す。

「おいしそう~。味見してみてもいい?」

無言のまま渡した小皿に、川奈さんはあふれるギリギリまでよそった。

「あ! それトマト入ってるよ!」

「へ? そうなの? 全然わかんない。おいしいよ」

味見の範疇を越えた小皿は、止まる気配がない。

「なんで、ここにいるの?」

「お土産届けに来たら、千波さんに『どうぞ』って言われて。そうだ! はい、これ。チーズケーキ」

渡された紙袋には、小さく神宮寺リゾートの名前も書かれてあった。
お礼を言って冷蔵庫にしまう。