俺は、紗奈が死人の亡骸の様になってから
その姿を見るに耐えきれず家を飛び出した。
それからは荒れる毎日で喧嘩をどれだけしても
スッキリする事は無く繰り返している時だ

「あん?」

突然後ろから服の裾を引っ張られ振り向いた

「誰だ……てめぇ。」

後ろを振り向くと高身長の女が立っていた。

「山口…郁斗君…ですね?」
「だからなんなんだってんだよ」
「ボスがお呼びなのでどうぞこちらへ」

女は車に乗る様に指示してきた。

「ボスだあ?知らねーよ、離せごらぁ」

俺が無視し消えようとするとまた喋った

「紗奈さんも居ますが…いいのですね?」

紗奈……その言葉を聞き気が気じゃなくなり

「てめぇら紗奈に何もしてねーだろうな!!」
「……はぁ…早くしろや糞餓鬼が」

女は突然豹変し、俺は笑った

「なんのつもりだ?」
「急げっつてんだよ…殺すぞ糞餓鬼」

豹変したかと思えば空気が一変とした

「喧嘩売ってんのか?」
「私には勝てねーよ。いいから急げや」
「やんのか?」
「… 紗奈さんに何かあっても知らねーぞ」
「あぁ?んだよそれ紗奈ん所連れてけ」

郁斗は喧嘩所じゃないと思い
紗奈を優先的に考え喧嘩は後にし車に乗った

「……あんた……かなりラッキーだよ」
「あ?」
「…菜々さん達の子供って所が……」

いきなり話しかけられ喧嘩かと思えば
突然悲しそうな表情をし外を見る女
訳がわからねえ……つーか…

「んでお前が母さん知ってんだよ」
「…母さん…か……」
「……お前もしかして…父さん知ってるか?」

何故か郁斗は、父親が頭に浮かんだのか
突然見知らぬ女なはずなのに
有栖川にキレてたことも忘れ問いだした

「…父親は会った事ないが母親は知ってる」
「……母さんの…事…」
「あんたの母さんは、私の憧れの人だ。」
「……憧れ…あいつが?」
「あいつ……ふ…菜々さんはどんな人だった?」
「母さんは……一言で言うと……鬼瓦」
「ぷっ……ふ……ふはははははははは」

郁斗の一言に耐えきれず爆笑しだす有栖川
郁斗は、なんだこいつという目で見ていた
とても喧嘩なりかけた同士とは思えない光景

「そうかそうか…鬼瓦か…ははは」
「あんたの知ってる母さんは?」
「そうだな…」

懐かしそうな…悲しそうに外を見ながら
話し始めた有栖川の方を向く郁斗

「菜々さんは、カッコよく、かなり最強で
昔から怖いもの知らずで凛としていて
曲がった事がかなり嫌いで真っ直ぐな人で
可愛がると、とことん面倒見がよくて
仲間思いで…優しくて魅力の塊で……
誰もが近づきたかった人だけど遠い存在で
近づききった人はひと握りだけだった」
「あんたは?」
「私が幼い頃から可愛がってくれていた方が
居たんだ。その方には今でもお世話に
なっていて…その方の親友が菜々さんだった」
「ふーん…」
「あった時は驚いたよ…あの…菜々さんが…
今私の目の前にいる…ってな」
「母さん…多分あんたの知ってるままだった」
「え?」
「母さんは俺にはかなり厳しく育てたんだ
でも紗奈にだけはいつでも優しい母親だった
俺はそれが原因で荒れたなんて事はなかった
それは、父親から話しを聞いていたからだ」
「……父親…」
「父さんは俺と紗奈を平等に扱っていた
でも俺はいつの日か言った事があったんだ
何でクソババアは俺にだけ厳しんだ。って
そしたら父さんが言っていたんだよな。」
「……なんて?」
「もし両親揃って居なくなってしまった時
紗奈を守れるのは俺しかいないし
だからと言って俺を犠牲にしてほしい。
と思っている訳ではなくて自分と紗奈
二人を守る力を備えるには、両親揃って
優しいだけじゃ俺の為にもならねーし
片方が優しく片方が厳しく育てよう。ってな
父さんの言葉は俺にとってはきっかけだった
喧嘩を覚えたのは父さんからで忍耐力は
母さんから教わり優しさや愛や温かさは
両親に教わった。俺は誰にも言う気ねーし
馬鹿にされんだろーけど、俺らの両親は
世界一の両親だと思っているんだ。」

有栖川は郁人の話を聞いた時一瞬固まったが
すぐに微笑んだ

「片方だけ厳しくで菜々さんがなる所とか
菜々さんらしいんだな。」
「……あぁ。」


長く話しているうちにデカい家に着いた

「なんだここ……」
「降りなさい」

俺は言われるがままに車を降りたその時

「……郁……斗…?」

後ろを振り向くと苦しんでいる風でもなく
普通の紗奈に戻っていて郁斗は固まった。

「紗奈……お前っ」
「もう…もう大丈夫だよ、郁斗」

強く、強く、消えない様に 強く抱きしめた。

「郁斗……痛いよ?」

痛いよ なんて笑いながら言ってる紗奈を見て
郁斗は 信じられないという目で見ている。
そんな中紗奈の後ろの車から男が降りてきた

「山口……郁斗くんだね…?」
「あんた誰…」
「私は…飯島……翔…」
「俺たちに何の用すか?」

男はかなり驚いた顔で俺を見てくるし
まず何者かも知らねーし、でも紗奈は
何故か普通に接してるし、なんなんだよ