松枝のオヤジの笑顔がかたまった。
松枝商事は
戦後、葛西財閥が解体された後も、
苦しい時代を経て、葛西コンツェルンとして
土台を強固にするために、
松枝の先代から支え、
尽力してくれた会社だ。
葛西と比べると、各段と規模は小さいものの、
歴史は長い、老舗の会社だ。
しかし、その先代からの置き土産で始めた
不動産経営への参入が会社の芯を
食いつぶすカタチになっている。
大した収益もなかったのに、
先代のノスタルジーを捨てられず。
膨らみ始めた負債は、もう会社を呑み込みつつある。
早く切り捨てればよかったものを
松枝の優しさが命とりになった。
もう救えない。
このままいけば、松枝は戻れないとこまでいくだろう
そのダメージは葛西の会社にも少なくはない。
松枝は窓の方を向いたまま、
つぶやくように言った。
「優くん」
ピク。
葛西の肩が反応する
「立派になったなあ。」
どんなきつい言葉も受け止めるつもりでいた
葛西に、松枝は
横顔を向けたまま
それだけを告げた。