「松枝様がお見えです。」




秘書が内線を鳴らした。




黒髪の多くが、もう銀色に近い白髪に染まった、




好々爺のような松枝。




目尻の下がった人の好さそうな顔は、




いつも、笑っているかのような表情をしている。




たるんだ頬に大きくある黒い痣も、




その雰囲気のせいで




チャームポイントになっている。




その松枝が、甘いものの食べ過ぎで、




体格のいい体を従え




社長室に入ってきた。




年取ったな。




当たり前か。




もう70近いはずだ。




「久しぶりだな。優くん。



元気そうで何よりだ」



大きな声で言う。




松枝のオヤジは、昔から変わらない人だ。




あのころから、この笑顔も変わらない。




親父の会社の集まりで会うときも、唯一。




俺を真っすぐ見て、

 


気さくに話しかけてくれる人だった。




松枝のオヤジのポケットからは




いつも何かしらお土産が出てくる。




それは、駄菓子だったり、ミニカーだったり。




けして高価なものではないけれど。




どこそこの何。




なんて名前のついた高級なものより、





うれしかった。




いつも俺のために。

 


俺のためだけに




ポケットを探る松枝のおじさんの手に




ワクワクした気持ちを、まだ覚えている。




「今日は、なんの話だい?




この前の、埼園工業のことなら




もうちょっと待ってほしいんだがね。




今うちの営業の子たちが、頑張っておるんでね」











「松枝さん。




今期限りで、御社との契約は終了します」






今日 俺はこの人を切り捨てる。