二時間前……
社長室のソファに座る藤崎さとみは、
自分を励ますように
手を握りしめていた。
頭の中は、一つのことだけに集中するようにと
自分に、言い聞かせ続けている。
後ろでまとめたセミロングの黒髪。
小柄な体に、
紺色のニットにフレアのスカートを着ている。
実年齢の23歳よりはやや童顔で。
目じりが少し上がり気味の 大きな二重の瞳に
少し小さいけれど、厚めの唇をかみしめるように、
結んでいる。
軽く化粧した顔色は、
緊張のせいで、少し青ざめていた。
社長室の、ドアが開く。
社長の葛西優が、
秘書を従えて入ってきた。
さとみには、二人とも目もくれない。
「佐藤商事の件は、任せる。
成果だけ報告するように言っておいて」
窓際からの景色を背に
置かれたデスクへ歩きながら 社長が言う。
デスクは木目調のブラウンで
大きく重厚感があり、
この部屋の主人と同じように堂々としている。