驚いたような目のままのさとみが




確認するように口にする。




「社長は、すごいひとで




みんなから必要とされてて




愛なんか必要ないって




メリットで結婚するって




私とは世界が違うひとで」




社長の言葉の意味はわかるのに




信じられなくて




心に言葉がしみこまなくて




惚けたようにつぶやくさとみに




社長が身体を折るようにして




目線を合わせる。





「うん。




愛してる」




泣き出す前のように表情を歪めたさとみが




「必要ないって




女の人とキスして」




「うん。ごめん。




愛してるよ。」




涙は尽きなくて

 


またさとみの瞳から溢れる。




「私なんか




お母さんにも愛されないような人間なのに…」




自分でも気づいていなかった




私をカタチ作る




私の中のいちばん




重たい不安の核心。




社長が苦しいくらいさとみを抱きしめる。





「愛してる」





流れる滴は同じなのに





「愛してる。」



 

さっきまでとは違う涙で




「お前の母親なんか




世界中の他のヤツらなんか


 

何人いようと


 

関係ないくらい。




俺が一番お前を愛してるから。




おれのそばにいてよ。




もうぜったい傷つけないから




おれのそばにいて。」





流れる涙は




幸せで泣けちゃう涙で。




空に浮かぶおぼろ月のキレイさも





いつのまにか雨があがったことも





遠くで聞こえる動物の遠吠えも





二人の世界の外側。