心臓がうるさくて





まともに考えられない。





何言ってるの。





『この関係が気に入っている。』





そう言った社長。





そうだよね。





恋人でもない、友達でもない





なんのしがらみのない関係を。





気に入っているから?





それを





あの部屋で続けていくの?





それが、社長の望み?





それで、私は…?





どんどん、どんどん





これよりもっと





社長を好きになって





また、





傷つくの?





心が粉々になるの?





私には…





できないよ。





「…帰らない」





「社長となんて、帰らない!」





さとみの強い口調に





「…新しい彼氏がいるから?




簡単だな…」




バカにしたような社長の声。




さとみはかっとなる。




「離してください、離して




離してよっ」




少しも緩まない腕に




社長の思い通りの自分に




ますます、悲しくなる。




「…何で? 




こんなことするんですか」




こらえていた涙がさとみの頬に




こぼれた。




「あなたは、私なんて




私なんていらないって」




「言ってない」




口では言ってなくても…




「私の、目の前で、



女の、人に…キスした」



カタコトのように、涙でつまったさとみの声。



涙腺があつくて



ボロボロ零れ落ちるのは



まだ



社長が好きで



癒えないスキの気持ち。



その痛い事実にまた涙が流れる。