暮れた空からスコールのような雨が降り出した。




一人で店の片づけをしていたさとみは




急いで、店舗前の立て看板をしまいに行く。




ポツリと立つ街灯の薄暗い灯りのみが




路地を照らしている。





月は、灰色の雲にぼんやり隠されてしまって




にじんで見える。




さとみは、重たい看板を引きずるように持ち上げた。




斜めに差し込む雨に服が濡れる。




急に




肩に当たっていた雨と音がさえぎられた。




誰かが傘を差し出してくれた?




「ありが…」




いいかけ、見上げた先に




社長…。




社長が、傘を差し出して立っている。




至近距離で見つめ合うカタチになって





立て看板を離して




慌てて距離をとろうとするさとみの腰を





社長がつかんだ。





引き寄せられて、




社長のたくましい身体に





ふれる。





「やっ。離し」




「話したいんだ」




「私には話すことなんてないって」




言いかけるさとみに




社長がボソっと言った。




「もう我慢の限界だ」




え?




「俺に、この店買い取ってほいしのか」




社長の目がわずかな灯りに反射して、光って見えた。




「何言って、そんなことでき」




さとみのうろたえた言葉を




「可能だし、するよ」




「この店も、横の施設も




明日にでも、買い取る」





何でもないことのように、





無感情に言ってのける社長。





身動きもできなくて、




追い詰められたさとみが




「社長…



卑怯です。




何で…」





泣きそうな顔で言うのに




「そうだよ。




俺はこういう男だよ。




知ってただろ」




挑むような表情の社長が




さらに、さとみを引き寄せた。




胸が苦しくて




痛くて




こんな思いさせる社長が




真っ直ぐ、私を見下ろしてる。




「社長はいったい




何が、望みなんですか」




さとみの困惑した声。