数日後…。




お店は、ランチタイムも落ち着きだして、




常連さんとも会話できるくらい




余裕ができてきたころ。




ガラ。




食堂の扉が開いた。




ちょうど、テーブルを片付けていたさとみが




振り返る。




「いらっしゃいま」




言葉は途切れた。




社長…。




チャコールにシャドーチェックの入った




クラシカルなスーツ。




濃いネイビーのタイに白いシャツ姿の社長。




たった今仕事から抜けてきたようないでたちで。




跳ね上がった心臓を無視して、




さとみは厨房へ戻る。




何しているの。




一体どういうつもり。




「さとみちゃん?




お客さん。そこどうぞ!




注文決まったら教えてくださいね」




三原さんが、社長に叫ぶ。




知らない。




勝手にすればいい。




さとみは早る鼓動を無視して




流し場で手を動かす。




何で




何で




知らない



知らない



私には、関係ないもん。






…でも、やっぱり気になって…




社長に目をやる。




…やだ。




社長、すごい浮いてる。




みんなが社長を気にしてる。




地元民しか来ないような定食屋で、




作業着や、ジャージ姿のひとたちに囲まれて




一分の隙も無いような、異質なオーラをはなつ社長。




何かイスやテーブルに収まりきれてないし




こんなとこで、ごはんなんて、




食べたことないくせに




無理して。




眉を寄せて、メニュー見ている社長。




三原さんが社長に話しかける。





「お兄さんどっから来たの?



東京?



何食べるの。決まらないの?



まあ、すごい格好だね。




何歳?何やっているひと?




何その時計、すごいのしてるね。重たいでしょ。



兄ちゃん。かっこいいねぇ」





三原さんのマシンガントークに




あの社長が黙っちゃっている。





「兄ちゃん、これこれ。




これ頼んだらいいよ。これにしなよ」




かれーうどん無理やり注文されてる。




かからないように食べるとこ




見たいとか、いじられてる?








だめだ。 

 


ちょっと笑いそうになっちゃう。