日本の西端の沖縄からさらに西にすすんだ島。




水平線が近くて




どこにいても香る潮のにおいが




自分の居場所を再認識させてくれる。




11月にもなっているのに、




ここの空はまだ青い。




日中は汗ばむ日も多いのに、




夜は秋がやってくるから、上着がいる。




鳥を見送ったさとみは、




立ち止まっていた、自転車をこぎだす。




「おーさとみちゃん。後でねー」




病院へ向かう近所の清水のおじちゃんが、




大きな声をかける。




この島の人はみんな地声が大きくて、




おおらかで、とにかくひとなつっこい。




そして、優しい。




よそ者の私たちをすぐ受け入れてくれた。




「姉ちゃーん。おかえりー」



見上げると



灰色の四角い建物の二階。




薄い水色の制服姿の智くんが、手を振っている。




今智くんはこのリハビリ施設で、




介護助手として働いている。




施設の横の食堂の二階。 




私たちは、今はそこに部屋を借りて 




一緒に住んでいて。




「ただいまー」




手を振り返すさとみは、エプロン姿。




食堂で働くさとみは、




足りなくなった食材の買い出しから




帰ってきたところ。




裏口の横で寝ころんでいた柴犬の太郎が、




しっぽを振って、さとみが撫でてくれるのを




待っている。




太郎は店長の犬で、まだ生後8か月。




毎日店長と一緒に出勤してくる。




膝まづいて撫でてやると、




かわいいお腹を見せて、もっともっと




と甘えてくる。