黒いつややかな車が入ってくる。
ドキ。
社長のベントレーだ。
ベントレーは入口の真横に止められた。
さとみのたたずむ場所から数メートル。
社長が降りてくる。
さとみの心臓が痛いくらい音をたてる。
社長は、さとみには気づいていない。
勇気をふりしぼって、口を開きかけたさとみ。
社長が車の方を振り返る。
誰かが降りてきた。
「あ」
綺麗な女の人。
いつかマキちゃんが見せてくれた。
迫田化学のご令嬢。
さとみは動きもできず、
お似合いの二人を、みつめるしかできない。
女の人の肩越しに社長が、
さとみに気づいた。
さとみの心臓は痛い。
しめつけられて、やばいくらい痛いよ。
社長…。
社長の瞳が、さとみを見つめる。
二人の視線はつながったまま。
社長の腕が動いた。
まるでスローモーションのように
身体が固まったように動けないさとみが
見つめるその先で。
社長は、さとみの瞳をみつめたまま
彼女にキスをした。
抱き寄せられた、
彼女の腕が社長の首にまわる。
当たり前のような、彼女と社長の仕草。
きっと、目に焼き付いて忘れられない。



