社長は無言で歩いていく。
大きな手が、さとみの手を引っ張って歩いていく。
近くの駐車場に入り、
社長が、流線形のメルセデスベンツに向けて
キーを操作する。
ピ
かすかな音とともに
「姉ちゃん!」
後ろから智くんの呼び止める声。
智くんが走ってくる。
「姉ちゃん。その人の言う通りだよ。」
「ハア」
手であごの汗をぬぐい
呼吸を整えて、智くんが言った。
「もう俺にかかわらないで。
もう俺のことはほうっておいて。
姉ちゃんは、
姉ちゃんのしたいことしなよ。」
昔は
私を見上げていた 小さかった あの智くんが、
私を見下ろして言った。



